がんと最先端治療

がんと最先端治療D
 
7.粒子線治療の今後

このように素晴らしい結果を示した重粒子線治療装置を更に一層使いやすいものとし、多くのがん患者さんにとって真に有用な医療を提供していくために必要となる工夫があります。粒子取り出し速度の超高速化により超高線量率での照射、位置決めおよび照合用画像取得装置を一新し治療寝台ともに完全自動制御化により、呼吸停止下での照射の実現をめざします。これらの工夫により、適応を根治症例に限定せず広く再発や進行期症例に拡大します。今、最も期待される適応のひとつとして再照射症例があげられます。従来のすべての治療法をもってしても無効といわれた患者さんたちが、がん難民となって全国をさ迷い歩くといいましたが、この中には従来のX線治療が行われた部位に再発したケースも多く含まれています。そのような場合でも、新しい重粒子線治療法であれば治療(局所制御)可能なケースは多数存在すると考えられます。問題は治療によりどのような具体的な利益が患者さんにあるかという点です。少なくとも、現存する臨床症状の緩和とQOLの改善といった文脈での利益は容易に実現できると考えられます。延命については重粒子単独では困難かもしれません。しかしながら、これまでに、X線治療にて惹起されるとされたがんの増殖因子や転移促進因子が重粒子線では誘発されないことがわかっています。今後の検討にて延命に結びつく結果が得られることに期待したいと思います。
8.粒子線施設の貢献

ここで少し話題を換え、世界とわが国の関わりについて考えてみましょう。国際的紛争地域における最大の問題は、弱者である一般市民が被る被害です。その中でも中長期的に見ると劣化ウラン弾による発がんが注目されています。このことは今回サマーワに派遣された自衛隊員についても将来に禍根を残すことのないような対処が必要となります。このような発がんへの対応に最もふさわしいのがさまざまながんへの適応が可能な重粒子線治療です。

本装置の持つ能力はがん治療だけに限定されてはいません。宇宙空間にて電子機器が高い信頼性のもとに稼動するためには、放射損傷に耐える機器の開発が必要となります。これらの実験に不可欠なのがシンクロトロンなどの大型加速器です。またこれまでのプラント輸出はハードに限定したものがほとんどでした。しかし今後はソフトである医療システムまでを包括した案件が期待されています。そのような意味で、最重要となるのが人材トレーニングであるといえます。このように本装置の周辺には様々な貢献が期待されています。

9.(付録)シンクロトンの医学応用

大型加速装置であるシンクロトンは、本来、素粒子物理学や宇宙創生論などの実証に用いられてきました。しかし、最近になって物性研究の分野でも大きな貢献が示されています。このような装置を設置した放射光施設に注目が集まっています。この装置から得られる極めて強いX線を用いたがん治療についても新たな研究が始まっています。医療現場に導入可能な小型シンクロトロンの開発と相俟って、がん治療への新たな展開が生まれることが期待されています。
 
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